離婚訴訟の流れ
離婚訴訟(離婚裁判)といっても、具体的にどういう流れで行われるのか、イメージがしにくいと思います。
そこで、弁護士が離婚訴訟の代理人となる場合の、訴訟(裁判)の開始から終了までの流れを解説します。
1 訴状の作成
離婚訴訟を起こそうとする場合、まず、離婚原因があるのか、検討します。
離婚原因の具体的内容については、コラム 離婚訴訟を起こす場合の離婚原因をご覧ください。
特に、民法770条第1項5号を理由として離婚を請求する場合、法律の明文はありませんが、婚姻関係が破綻しているだけでなく、破綻の主な原因が、少なくとも離婚訴訟を起こす原告側にないことが必要でしょう。
検討の結果、離婚原因の証明ができそうな場合、弁護士が訴状を作成し、裏付けとなる証拠書類を揃えて、家庭裁判所への提出準備をします。
2 訴状の提出と被告への送達
弁護士が訴状と証拠書類を家庭裁判所に提出すると、裁判所は訴状を審査し、問題がなければ、パートナー(被告と呼びます。)に訴状、証拠の写しと第1回の裁判日時(口頭弁論期日といいます。)を指定した書類を送ります。
この際、裁判所は提出期限を決めて、被告に答弁書を提出するよう指示します。
「答弁書」とは、被告が自分の言い分(原告の主張を認めるのか認めないのか、認めないのであればどういう理由で認めないか理由や、被告の反論など)を記載した書類です。
答弁書と合わせて、被告が自分の言い分を裏付ける証拠書類を提出することもできます。
3 第1回口頭弁論期日
家庭裁判所の法廷で、原告は訴状を陳述し、被告は答弁書を陳述します。
「陳述」というのは、法廷で主張したいことを記載した書面(第1回口頭弁論期日の場合、訴状と答弁書)を読み上げる、という手続です。
ですが、実際には読み上げをせず、「(提出した書面のとおり)陳述します。」ということを口頭で裁判官に伝えるだけです。
裁判官や弁護士にとっては日常的なやりとりのため、裁判官が「陳述でよろしいですね?」と尋ね、弁護士が、「はい」などと言って終わることが多いです。
第1回口頭弁論期日に限り、被告は事前に答弁書を裁判所に提出しておけば、裁判当日に裁判所に行かなくても、答弁書を陳述したものとみなしてもらうことができます。
これを「擬制陳述」といいます。
第1回口頭弁論期日は被告の都合を聞かずに決めますので、被告が出廷できず欠席する場合でも、被告の言い分を主張できるようにするための規定です。
第1回口頭弁論期日の最後に、裁判官が原告・被告双方の予定を聞いて、第2回の口頭弁論期日の日時を決めて、裁判は終了します。
なお、被告が出廷できなかった場合は、裁判所が事前に被告から候補日時を聞いておいて、法廷で原告と調整をします。
弁護士を代理人とする場合、原告であっても被告であっても、通常、当事者本人は出廷せず、弁護士だけが裁判所に行きます。
4 第2回口頭弁論期日
第2回口頭弁論期日では、原則として、原告が被告答弁書に記載した事実のうち、認める部分と認めない部分を記載するとともに、被告の言い分に対する反論を記載した書面(この書類を「準備書面」といいます。)と、自らの主張を裏付ける証拠書類を事前に提出し、法廷で陳述します。
ですが、被告に弁護士が代理人としてついた場合、答弁書には原告の主張を争う旨のみ記載して提出することが多いため、第2回の口頭弁論期日では、本来、被告が答弁書で記載すべき事項や証拠を記載して陳述して終わることがよくあります。
5 第3回目以降の口頭弁論期日
1回の口頭弁論期日では、原告か被告、どちらかの準備書面と証拠だけが提出されるのが普通で、それに対する反論や証拠は、その次の口頭弁論期日で提出することになります。
つまり、原告と被告は交互に各自の主張・証拠を提出し、これを何回か繰り返すことで、争いがある事実とない事実を明確にしていきます。
通常、口頭弁論期日は月に1回程度の間隔で開催されますので、例えば、原告・被告が準備書面を2回ずつ提出すると、口頭弁論期日が4回必要になります。そのため、4か月以上かかることになります。
このように、裁判は月単位の進み方をしますので、訴訟提起から判決まで、6か月以上、経験的には、訴訟提起から判決まで、1年前後かかることが多いように思います。
なお、訴訟の口頭弁論期日は公開の法廷で行われますので、誰でも傍聴することができます。
ですが、離婚訴訟は家庭内の紛争を争う事件で、プライバシー保護の要請が大きく、公開法廷で行うことが良いとは限りません。
他にも理由はあると思いますが、離婚訴訟の場合、第2回目から、裁判所の決定により、非公開の「弁論準備手続」という手続に移ることが多いです。
「弁論準備手続」も、非公開で行われるだけで、実際に行うことは口頭弁論手続と大きくは変わりません。
6 本人尋問
このように口頭弁論期日または弁論準備期日を何回か行うことで、双方に争いがある事実が明らかになります。
ですが、離婚訴訟の場合は、家庭内のできごとですので、争いがある事実については本人の話で証明するしかない場合が多くあります。
例えば、自宅の一室で夫婦喧嘩をした場合、何を言われたか、何をされたか、通常は目撃者がいません。
喧嘩に限らず、家庭内で起きたできごとの多くは夫婦しか見聞きしていないか、子どもが見聞きしていても、年齢が低すぎたり、夫婦のどちらかの味方である等で、信用性が認めにくい場合が多いです。
そこで、離婚訴訟の最後の段階で、原告・被告双方の尋問を行います。この手続を「本人尋問」といいます。
「本人尋問」は、原告と被告双方が裁判所の法廷に出廷し、真実を述べる旨の宣誓をした上で、色々な質問を受ける手続です。
質問をするのは、その当事者の代理人の弁護士、相手方当事者の弁護士及び裁判官です。
質問の時間は事件ごとに違いますが、主尋問30分、反対尋問30分、裁判官が数分から10分程度、というパターンが多いように思います。
7 和解の試み
本人尋問が終わると、裁判の審理は終結し、判決期日が指定されることが多いですが、裁判官の提案で、和解による解決ができないか、試みることがあります。
多くの事件で、裁判官は本人尋問で初めて当事者本人に会い、その話を聞きますので、この段階で、原告の離婚請求を認めるか認めないか、決める場合が多いと思われます。
裁判官の考えが固まったのであれば、判決を下して一方的に命令するより、裁判官の考えを当事者にある程度伝えながら、和解で解決した方が当事者にとって良いということなのでしょう。
和解で解決できる場合は、和解内容を文章でまとめ、裁判所が「和解調書」という文書を作成して訴訟は終了します。
離婚訴訟が和解で終わる場合は、原告と被告の双方が離婚することに合意するけれども、財産分与、慰謝料等、離婚条件で被告に譲歩するというパターンが多いでしょう。
「和解調書」には判決と同じ効力があります。
離婚をするかしないかで対立が続く場合は、和解で解決できないので、判決を下すことになります。
8 判決
本人尋問後に審理が終結した場合や、和解を試みたが和解が成立しなかった場合、裁判所は判決期日を指定し、判決を言い渡します。
離婚訴訟の場合、離婚を認めるか認めないか、離婚を認める場合は、親権、養育費、財産分与、慰謝料及び年金分割といった、訴訟で原告が請求した全ての事項について、裁判所が判断をして命令を下します。
判決は、裁判官が離婚を認めるか、親権者はどちらか、財産分与や養育費の金額などを決めた「主文」と、その主文の結論に至った「判決の理由」に分かれていて、事件によっては長文です。
判決が書かれた判決書は、通常、郵送で送られてきます。
9 判決の確定または控訴
判決の確定
判決は、判決書が送られてから、14日以内に控訴されないと確定します。
判決が確定した場合でも、自動的に離婚したことが戸籍に記載されるわけではありません。
判決書と、裁判所が離婚判決の確定を証明する確定証明書等、書類一式を揃えて、離婚届を役所に提出して、初めて戸籍上も離婚となります。
この場合の離婚届は、被告に記載してもらう必要がありませんので、被告の協力なしに,原告だけで離婚届提出の手続を行うことができます。
控訴
判決に不服がある当事者は、控訴して、家庭裁判所の上級裁判所である高等裁判所で審理をしてもらうことができます。
控訴を希望する場合は、判決が送達されてから14日以内に、「控訴状」という書類を家庭裁判所に提出する必要があります。