離婚調停について
どのような場合に離婚調停が必要か
離婚する場合、多くのご夫婦は話し合いで離婚の条件を決めて離婚していると言われています。夫婦間での話し合いでする離婚を「協議離婚」といいます。
ですが、離婚について話し合いをしても、離婚することについて夫婦の意見が一致しない場合、離婚することは合意できても離婚の条件について話し合いがまとまらない場合があります。 また、別居していてパートナーに連絡が取れなかったり、パートナーが話し合いに全く応じない等、そもそも離婚の話し合いができない場合があります。
このような場合に、離婚を希望する方は、家庭裁判所に離婚調停の申立てをするのが良いでしょう。
離婚調停とは
離婚調停は法律に基づき、家庭裁判所で行う話し合いの手続です。
裁判所で行う手続なので、裁判所から何か命令されたり、何かを強制されることがあるように思うかもしれません。
ですが、調停手続はあくまで家庭裁判所が中立・公正な立場で、夫婦間の話し合いの手助けをする手続です。
ですから、原則として、裁判所から何かを命令されることはありません。
離婚調停手続を進める担当者について
離婚調停を進める裁判所側の担当者は「調停委員会」という3名のグループです。
「家事調停委員」という肩書の男女2名と、裁判官1名の3名です。
家事調停委員は常勤の公務員ではなく、担当する事件がある時だけ裁判所に来る非常勤の一般人です。
本業は、色々な職業団体から推薦を受けた方、弁護士等の士業の方、元司法関係者が多いようです。
調停手続は、通常、調停委員2名だけで進め、裁判官は立ち会いません。裁判官は同じ時間帯に進行している複数の事件を担当しているので、色々な調停室に出入りしていることが多いと思われます。
調停が成立・不成立で終結する時や、難しい法律問題が発生した時など、事件の節目や裁判官としての判断が必要になった場合に、裁判官も参加します。
離婚調停の申立て
離婚調停は、離婚を希望する方が家庭裁判所に離婚調停申立書を提出することでスタートします。
離婚を希望する方(申立人)が家庭裁判所に調停申立書を提出すると、家庭裁判所で書類を確認し、不備がなければ第1回の調停期日が指定されます。
そして、家庭裁判所から申立人と相手方双方に「期日通知書」という書類が送られます。
「期日通知書」には、第1回の調停の日時、場所等が記載してあります。そのため、自分でパートナーに伝える必要はありません。
こうして、家庭裁判所が指定した日時に申立人と相手方が家庭裁判所に行くことで、調停がスタートします。
家庭裁判所の待合室は「申立人待合室」と「相手方待合室」に分かれていて、待っている間にお互いが顔を合わせないようにする配慮されています。
ですが、裁判所に行く途中で当事者同士が会ってしまう可能性があります。
例えば、私がよく行く横浜家庭裁判所川崎支部はJR川崎駅から一本道なので、調停の行き帰りに、依頼者と偶然会ったり、依頼者の相手方を見かけたりすることがあります。
また、裁判所の建物の構造上、動線が分けられていないので、裁判所の建物内で偶然、お互いがあってしまう可能性もあります。
中には、DVやモラルハラスメントがあり、お互いが絶対に顔を合わせないようにしなければいけない事件もありますので、裁判所の行き帰りや裁判所内で移動するときは気を遣うことがあります。
第1回調停期日の進め方
現在、家庭裁判所では、その日の調停の最初に、調停室に調停委員、申立人、相手方の4人(弁護士が代理人としてついている場合はそれ以上の人数になることもあります。)が集まり、その日に行う予定の説明を行うことを原則としています。
ですが、当事者が顔を合わせたくない場合には全員集まることはしない場合もあり、裁判所と調停委員のさじ加減で決まるようです。
その後、調停が始まります。調停といっても、全員が同じ部屋で話し合うわけではなく、調停委員2名がいる調停室に、まず申立人が呼ばれます。
申立人は調停申立書を事前に提出していますが、離婚したい理由や離婚に伴って、どういうことを決めてほしいのか、詳しくは書かないのが通常です。
ですので、調停委員から、結婚生活についてや離婚を決意した理由、調停前にどういう話合いをしたかなど、色々と質問を受けます。
一通り説明をしたら、申立人は申立人待合室に戻ります。
そして、調停委員は相手方を調停室に呼び、相手方から同様に話を聞きます。
これを交互に繰り返して、調停委員が双方から事情を聴いて事件の内容を把握するとともに、調停委員経由で、パートナーに自分の気持ちや希望を伝えて、話し合いを進めていきます。
調停の最後に、最初と同様、調停室に全員が集まり、その日の調停で行ったことと、次回の課題を確認することが原則となっています。
この手続についても、当事者同士が顔を合わせたくない等の理由で、省略することがあります。
通常、1回の調停の時間は2時間です(現在は、コロナ禍の影響で時間の変更をしている裁判所もあります。)。
原則として、申立人から30分話を聞いた後、交代して相手方から30分話を聞きます。
これを2回繰り返して、その日の調停は終了となります。
もっとも、当事者の話が長くなった場合など、時間のバランスが崩れることもよくあり、待合室で1時間以上待つ、ということもたまにあります。
第2回調停期日以降の調停の進め方
2回目以降の調停も、手続の流れは第1回と同じです。
調停手続は積木と似ているところがあります。
まず、離婚するかしないかについて、双方の意思を確認し、一応、双方離婚する意思がありそう、となれば、どちらが親権者になるか、という話し合いに移ります。
親権者がどちらになるか、一応の合意ができれば、次に養育費の金額についての話し合いに移ります。
積み木を積むように、確認できた事項を前提として次の事項の話し合いを進め、全ての事項について合意ができれば、調停が成立するのです。
ですので、基本的には、先に決めた事項をくつがえすのは難しいのですが、先に決めた事項も確定したわけではないので、くつがえることがあります。
例えば、離婚について一応合意をした後、親権者について話し合いをしていたが、親権者をどちらにするかお互いが譲らない場合に、親権が取れないなら離婚自体をしません、といって、積み上げてきた合意がくつがえることもあります。
このように、調停手続は、口頭での暫定的な合意を積み上げて進めていきます。
そのため、調停手続を初めて経験する当事者の方は、依頼した弁護士の説明やアドバイスがないと、調停がきちんと進んでいるのか進んでいないのか、今、どういう話をしているのか、よく理解できない、ということもあるようです。
離婚調停の成立
離婚することについて両当事者の合意があり、離婚の条件(未成年の子の親権者、養育費、財産分与、年金分割等)について合意ができた場合、合意内容を調停条項という文章にまとめます。
調停条項は調停委員が作ることもありますし、弁護士が代理人の場合、弁護士が調停条項案を作ることもあります。
調停が成立する場合、調停室に調停委員、裁判所書記官、両当事者を集めて、裁判官が調停条項を読み上げることで、調停が成立します。
多くの方は調停手続を経験することが初めてなので、あっけなく感じることもあるようですが、調停の成立により離婚が成立するので、法的には非常に重い場です。
裁判官が口頭で読み上げた調停条項は、裁判所書記官が「調停調書」という文書を作成して正式な文書になります。
「調停調書」には法律上、裁判官の判決と同じ強い法的効力があります。
例えば、調停調書において養育費や財産分与等、お金を支払う約束を記載すれば、支払う約束をした義務者が約束を守らない場合、支払いを受ける側(権利者)は、裁判所に申立てをして、義務者の預金口座や給与を差押えて、強制的に義務者に支払わせることができます。
離婚届の提出
離婚調停が成立した場合、法的には、その時点で離婚が成立します。
ですが、離婚が自動的に戸籍に反映されるわけではないので、当事者が役所に離婚届を提出する必要があります。
但し、協議離婚と異なり、離婚届に双方が記載事項を記入して押印する必要はありません。 離婚届を提出する方が1人で記入し、調停調書と一緒に離婚届を提出すれば、離婚届は受理されます。
こうして、戸籍上も離婚の事実が記載されるのです。
離婚調停の不成立
離婚調停で不成立になるパターンとしては、①離婚自体について合意できなかった場合、②離婚については合意できたが、離婚条件について合意できなかった場合、のどちらかが多いでしょう。
離婚調停が不成立になった場合、成立時と同様、調停室に裁判官、裁判所書記官、調停委員、両当事者が集まり、調停を不成立とする旨、裁判官が話して終了となります。
不成立の場合も、あっけなく感じる方が多いと思います。
離婚調停の申立人が、離婚訴訟を起こすことを考えている場合、訴訟を起こすときに不成立の証明書が必要なので、裁判所に不成立の証明書の申請をする必要があります。
なお、法律の定めで、いきなり離婚の裁判を起こすことはできず、まず、離婚調停を行い、調停が不成立になった場合のみ、離婚の裁判を起こすことができることになっています。
離婚のような個人的な問題については、裁判官が強制力をもって決めるのではなく、できるだけ当事者の話し合いで解決した方がよい、という考え方によるものだと思います。